a.testoni財布の折り部補修

ア・テストーニの二つ折り財布をお持ちいただきました。シンプルな二つ折り財布で、丁寧に使っておられるのが判る一品でした。

お客様が気にされていたのが折り部の傷みです。画像でも財布の左上は色が無くなっているのがお判りいただけると思います。

折り部の傷んだ部分をピックアップ撮影しました。表面の革が無くなって内側の革が見えてしまっています。

反対側も、同様に表面の革が無くなってしまっているのがお判りいただけます。単純にパテ入れだけで施工することもできますが、それではパテだけに耐久力を依存することになってしまいます。

弊社は折り部が擦れて革が無くなっている場合は、革裏に必ず革を貼りつける施工を心がけています。そうすることで、表面に塗布する塗料が擦れて無くなってもその下のパテになり、さらにパテが擦り切れたとしても革で耐久性を担保することができるからです。

「塗料」だけでなく「パテ」だけでもなく、「革」を入れることは下地処理として大変重要だと考えているからです。
こちらの画像は革の上にパテを入れ表面を塗装した状態ですが、まだ施工が終わっているわけではありません。

反対側も同様に革裏に革を貼りつけています。革の厚さは0.2mm程度だと思います。あまり厚い革は入れることができません。かといって薄すぎる革では貼り付ける意味がありません。

こちらも傷みだけは「革」プラス「パテ」と「塗料」で施工した状態です。完全に穴が塞がっているのがお判りいただけると思います。

こちらが施工完了後の状態です。何が変わったかお判りになるでしょうか?
実は糸の向こう側の傷みまで補修している点です。

同様に反対側も糸の向こう側を塗装した状態がこちらの画像です。

「糸の向こう側?」というのがお判りにならない方のためにこちらの画像を追加しておきました。
財布のエッジ(端面)全周を革で縫製してあるのが判ります。デザインの要素もあるでしょうが、財布の周囲は擦れが激しいので、革を縫製することでエッジ(端面)を保護する役目も大きいと思います。
また、こちらの財布は縫製している糸が革の色よりも明るい糸が使用されていました。デザイナーのこだわりだと思いますがリペア(修理)するには糸に色を入れない塗装方法が必要です。弊社では「糸残し」という方法で糸に塗料を入れない方法をご選択いただくこともできます。今回の塗装方法は「糸残し塗装」です。

周囲を縫製している糸の左右もしくは上下に革のあることがお判りいただけると思います。Before画像と比較いただくと、周囲の革に傷みが無くなっているのがご覧いただけるはずです。

しかも、糸の色はオリジナルと変わりません。糸を避けながら糸の左右と糸の上下をキチッと塗装する「糸残し」塗装しているからです。
お客様も「こんなところまで塗ったんですか?」と驚かれていました。
お客様が財布を手にされたときに「こちらの財布は20年程度使っているんです。」とお話いただけました。「これで、後20年は使えますね。」と大変お喜びいただきお持ち帰りいただきました。
リペア(修理)した者としては、できればその期間に達してもらえればと思ったひと時でした。
20年の時を考えれば貨幣価値も大きく変わり、リペア(修理)の方が高くなっていることもあると思います。しかし、お客様に思い出や記憶を蘇らせていただける瞬間は、リペア(修理)職人としての誇りであり、至福の時なのです。

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