アンティーク鞄の持ち手修復

アンティーク鞄をお持ちいただきました。当時のシールが貼ってあり、それが時代を表しています。元々の持ち主と共に多くの旅に同行したのでしょう。

反対面にも沢山のシールが貼ってあり、歴史を感じさせてくれます。このアンティーク鞄を一目見て「欲しい。」と思って購入されたとの事。どちらで購入されたのかはお聞きできませんでした。

お持ちいただいた理由は、持ち手の革が切れて使えなくなっていました。持ち手の左側は革が切れており、辛うじて糸は切れていないように見えます。右側は完全に表面革が無くなっているのがお判りいただけます。

反対側の持ち手は多少は良いように見えますが、革の傷んでいる所があちこちに見られます。

ピックアップ撮影すると傷んでいる所が十分にご覧いただけます。多くの革切れをご確認いただけると思います。

革切れを起こして、穴の開いてしまっている場所も所々に見られます。

革が無くなってしまったところは革を入れて補修することになります。

表面革が切れている場所を見ると、革を折って加工しているのがお判りいただけます。持ち手根元の表面革とエッジ(コバ)は完全に無くなってしまっています。

辛うじて糸で繋がっていたようですが、とても鞄に荷物を入れて持ち運べる状態ではありません。革は完全に切れていました。

明らかに経年劣化によるものです。単純に、新たな持ち手を作成して取り付けるのが最も手間が掛からない方法だと思います。

しかし、弊社にこの鞄をお持ちいただいたのは「アンティークな状態を保ちながら、鞄として使えるように修理して欲しい。」というご依頼でした。

まずは持ち手を外します。ピックアップ撮影すると、想像以上に傷んでいる箇所が多く、こちらの持ち手は中芯も傷んでおり、持ち手としての耐久性が損なわれている箇所もありました。

革が切れている持ち手の方も状態は悪く、左右の持ち手を取り外しても容易に修復できそうにありません。

切れていた革の内側に革を入れる事で、革は修復できましたが、どうしても凹凸が残ってしまうところもありました。

しかし、多少の傷みを残すことはアンティークな状態を保つ上ではかえって重要です。修理し過ぎず、十分な強さを持たせることが重要です。

補修が完了した持ち手を両面カシメ金具で取り付けた状態です。
「色がムラになっているね。」と思った方は完全に間違っています。敢えてアンティークな状態を醸し出すために、模型のジオラマなどに使われているウェザリング塗装を施しているのです。それによりムラを敢えて演出して本体と違和感が無いようにしています。

持ち手全体の状態はこのようになりました。補修していますが、本体との違和感は最小限に抑えられたと思います。
折り止めは稼働するところにヒビ割れが発生しているため、塗装色は本体に合わせています。

全体ではこのような状態です。本体は、擦れが発生している表面には革の内側が出ていますが、修復した持ち手には擦れはありません。そこまで再現してしまうと、不自然な状態になってしまうと判断したからです。

お客様にお見せすると「鞄として使っても問題ない?」という一言が帰ってきました。もちろん、外観だけでなく鞄として使用できるように修復しています。
大変ご満足いただき、お持ち帰りいただけました。このような修理は、事前にお話しいただければ対応できます。しかし、アンティークな状態を無視して修理する方がよほど簡単という事をご理解いただければと思います。
おそらくアンティーク鞄を購入された金額よりも、修理金額の方が高くなってしまったのではないかと思う一品の修理(リペア)でした。

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